
特別支援学級から通常学級へ
長男は小学校を特別支援学級でスタートした。入学当時は漠然とだったが、私はできればいずれ通常学級に移れたら良いなと思っていた。長男は特別支援学級に在籍しつつ通常学級の授業に交流というかたちで出席していた。
3年生になるとみんな落ち着いてきて支援学級より通常学級の方が静かだった。長男は通常学級に移りたいと言うようになった。通常学級の先生との相性も良かったのだと思う。校長先生は渋っていたが、3年生の後期(10月~3月)が始まってすぐに本人が校長室に突撃し直訴したので、その後はトントン拍子に進んだ。
いじめ?事件発生?
いろいろ戸惑うこともあったと思うが、長男はクラスになじんで順調に学校生活を送っていると思っていた。
通常学級に移って1年くらいたった4年生の時に「いやなことをされる」「ひどいことを言われる」と言うようになった。もしかしていじめ?と長男に詳しく話を聞いた。当時の長男は要領よく話ができなかったので、メモを取りながら話を聞いた。
長男は赤ちゃんの頃からハナみずがよく出ていた。耳鼻科に通って薬を飲んでもなかなか治らなっかった。私や先生が「ハナを取りなさい」と言えばハナをかむのだけど、夏でも冬でも一年中ハナをたらしていたせいか、ハナタレ状態がデフォルトで気持ち悪いと感じなかったようだ。(不思議なことに特に治療してないが成長と共に良くなって、今はまったくハナが出なくなっている)
ある日、ハナタレ長男はクラスメイトから「ひどいことを言われた」と傷ついていた。「ハナみずを取れ!汚い!」と言われたらしい。ずいぶんショックを受けていたが、よくよく話を聞いてみると「何度も言われる」という言葉が出てきた。
ん?ハナみずを取っても何度も言われるの?あれ?何かおかしいんじゃないかしら?と「すぐにハナみずを取っても、何度も言われるの?」と確認をした。
自閉系の誤学習(かんちがい)発見
長男はクラスメイトから「ハナみず取って!汚い!」と言われても、ずっとスルーしていたのだという。いや、それじゃ何度も言われても仕方ないと思ったが、長男には長男なりの理屈があった。
長男は「人は見た目で判断してはいけないのに、ぼくがハナみずをたらしているのを『汚い』と言うのはよくないことだ。見た目を直せと言うのは間違っている」と言った。だから、ぼくはハナみずを取らなくても良いのだ!と本気で考えているようだった。
なるほど、なるほど、そうきたか。昔の私が同じことを言ったら「屁理屈をこねるな!」と叱られていただろう。だけど、長男にとっては屁理屈ではない。
長男の名誉の為に断言するが、彼は性格が悪いからこういう考えにいたったのではない。ニキリンコさんの本を読んだことがある方ならわかってもらえると思うが、自閉系の人はときどき、多数派の人とちょっと違うとらえ方をする。これは脳みその情報処理が異なるせいで誤学習をしてしまうのだ。
本人はもちろん周囲の人間も誤学習に気が付きにくいから困る。しかし、その時々に本人に伝わる言葉で伝えていくことで修正できる。
長男の誤解を解こう
このような話をするときに目に見えない言葉だけで説明しても、うまく伝わらないことが多い。消えていく言葉では後から振り返ることもできない。この子たちは何度でも目で見れる言葉でゆっくり飲み込んで理解していくのだと思っている。
見た目で判断してはいけないとは?

まずは長男が考えている「見た目」の確認をした。彼は、身だしなみと言うのだろうか、清潔感のがあるかないかを「見た目」ととらえていた。そこで、私が考える「見た目」は容姿や体形と高価な洋服やアクセサリーなどを身につけているかどうかを例にした。
世間一般で言う「見た目で判断してはいけない」の「見た目」は清潔・不潔ではなくて、容姿とか経済力のことだと思うと説明した。本当は清潔感の有無だけで判断するのが良い事ではないと思ったが、この時は「自分が不潔にしていても周りが我慢するべき」という長男の自分ルールを修正する方が重要だと判断した。

そして「不潔」のデメリットを伝えた。不潔にしていると周りの人が不快になる、そしてだんだん人が離れていくということはハッキリさせておいた方が良いと思った。
小学生にそこまで言わなくても、という意見も耳にするが、切り替えが苦手な自閉系のこどもには「いずれ通用しなくなるお子様ルール」の方が有害だと思っている。きちんと伝えれば現実を受け止める力は十分にあるのだ。

「ハナみず汚い」と言われクラスメイトに対して少し逆恨み気味だったので、長男の気持ちと対比させるように、「汚いのはイヤだな」と思ったクラスメイトの気持ちも書いておいた。そして「言ってくれたから、自分の姿がわかった」ということも書き加えた。

今回のことで長男と私が考えていたことをそれぞれ書き出した。

これからどうしようかな?
今までは「汚い」「だらしない」と思っても言ってくれなかっただけかもしれないよ。これはけっこう厳しい内容だったと思う。私は子供に対してけっこうきついと言われる。きっと現実を突きつけるからだと思う。
でも私自身が、現実が見えない、気付けない苦しさをイヤというほど味わってきたので、ちゃんと向き合って話してくれる人がいた方がよっぽど良いと思っている。子供たちにとって良かったのか、それは彼らがもう少し大人になってから判断するだろう。
長男が意地になってハナみずを取らないでいると、いつまでも同じ繰り返しになるから、言われたらすぐにハナみずを取る、言われなくても小まめに取るようにしようと話した。

大人でもハナみずが出ることがあるけど、ハナタレの大人はいない。当時の長男には、こういうことも何となく自然にわかるというのは難しかったのだと思う。

とにかく、「汚い」と言われたら、すぐにハナをとろう!
波線の下は、それから数か月後に振り返った結果。

遠慮なく接してくれるクラスメイト
このことを担任に伝えたら、すごく喜んでくれた。
「クラスの子たちは長男に対して『特別支援学級の人には優しくしなくては』という思いがあって、遠慮というかちょっと腫れ物に触るようなおっかなさがあったのだけど、対等に普通に接していいんだと思えるようになったのだろう」と話してくれた。
子供というのは残酷で大人には言えないようなことをズバッと言ってしまう。この時の長男は確かに傷ついたのだけど、自分の解釈が人と違っていて自分ルールが通じないことを知った。大人になると言ってくれる人がいなくなる。何も言わずにそっと離れていく。
ズバズバ本当のことを言って対等に接してくれるクラスメイトは、小学生のあの時期だから出会えたのかもしれない。
コメント